藤倉大
メールインタビュー
月刊ピアノ

 
ピアノが原点。音楽はいつも僕を助けてくれた

——芸術選奨文部科学大臣賞新人賞受賞、おめでとうございます。まず受賞のご感想をお願いします。
 正直、漢字が多い賞だなと思ったのと、授賞式に行けなかったのですが、僕が大好きな映画監督や漫画家の方達がいらっしゃった写真を見ると、凄い賞なんだな、と思いました。ありがとうございます。
——これまで現代音楽を担ってきた道のりを、いま、どのように感じていらっしゃいますか。
 うーん、僕は現代音楽を書いてる、という気持ちはいつも無いので、ちょっとそんな気は特にしませんねー。好きな曲を好きな演奏家に書いていたらこうなったといいますか。続けるのが大変なので、よく何十年もこうして続けられたなぁ、と思います。
——「現代音楽」ではなく「新しい音楽」とおっしゃっていますが、「現代音楽」という言い方には抵抗がおありですか。
 大ありです笑。

——ピアノが原点とおっしゃっていますが、その原点の頃の思いはどんなものでしたか。
 原点といいますか、ピアノをまず習って、僕はピアノしか楽器はできないですね。でもピアノを弾いてイギリスに留学したり、奨学金もらったり、イギリスの高校でいじめられなかったどころか特別扱いだったり、まさに音楽がいつも僕の人生を助けてくれている、それも精神的な、ではなく、実際に助けてくれたと思います。それは特に小学生から高校の終わりまで。その内容は今書いてる僕の連載(幻冬舎の雑誌「小説幻冬」に連載)に詳しく書くので、そこで読んでみていただくとして笑。
——以前、「どうせやるならクオリティの高い音楽をつくりたい」とおっしゃっていましたが、藤倉さんの言う「高いクオリティ」とはどのようなものでしょうか。
 作曲者である自分が1番良い、と思う音楽が1番高いクオリティだと思います。もちろん聴く人からしたら、千差万別だと思います。でもこの作品、世に出して、世界中の人が「嫌いだ」と言っても絶対に自分は好きだ、これが1番良いんだと言える! と思った時がその作品の完成した時、だと思います。映画音楽やコマーシャル音楽で、誰かに気に入られないといけない音楽を書く、僕にはそんな生活は無理ですね。質素な生活で好きな音楽を一生書き、それに賛同してくれる演奏家の友人達と楽しく新しい音楽の可能性を探って生きる方が好きです。
——現代音楽の敷居を下げようとする試みは難しいですか。藤倉さんは新しい試みをなさっていますが。
 敷居って元々ないんじゃないですか? だって、ここ5年ほど、ルイ・ヴィトンの協賛でやっている、エル・システマジャパンの一環の子供作曲教室を福島県の相馬市でしているのですが、そこの教室では5歳から上の子達が来ます。僕は現代音楽が得意な友人の奏者を呼び、楽器の音域から特別実験奏法など紹介します。そうすると、即、5歳あたりの子達はそれを巧みに使って楽譜を書いて作曲します。現代音楽奏法満載の楽譜を30分で書いてしまうんです。「変な音が好き」とある子は言ってました。なので、敷居も何もないのではないでしょうか?

若い時は大変だったけど、今はどんどん音楽が書ける。


——藤倉さんご自身は、作曲の産みの苦しみはおありですか。
 若い時は本当に大変でした。特に20代前半。委嘱がどおっと入り込み、断るのもあるものの、どうしても作曲で生活をしたかったため、できるだけたくさん承諾し、それでも金欠時にそれを乗り切るために、ちょっと教えるアルバイトしては辞めて、作曲を続行したり。とにかく金銭難の上に作曲がうまくできない、という感じでした。でもその当時でも、なぜか、10年後にもっと大きな委嘱が殺到した時のために(何の根拠も無いのに笑)、たくさん作曲を手助けする作曲のシステムを自分で編みだそうとしていました。それは今ではいくつもあり、それを必要な時に使うという感じでしょうか。30代はまさにそれらを時々使ったりして曲を作っていました。
 40代に入った今はどんどんと音楽が書ける気がして、もうそんなシステムなんかもほとんど使わないで書く音楽が次へ、次へ、と導いてくれる感じがします。子供ができたのも大きいかもしれません。ずっと家にいるものですから、子育てもしますし、家族で僕だけ自分の部屋がありません。なので、7歳の娘がクラスメイトと、僕が三作目のオペラの楽譜チェックをしてるなか、僕の机の下に隠れたりして、娘と娘の友人は延々と隠れんぼをしていました。そんな中の方が音楽って作りやすいものです。

——では、普段の生活や趣味などは?
 普段の生活は全く単調です。朝起きて、週に半分くらいは僕が娘の弁当を作り、9時に学校に送り、そのまま妻と散歩に行くか、映画を一緒に観に行くか。ダラダラしてるとお昼。ランチ食べたあと昼寝をする時もあります。娘を僕か妻が迎えに行き、そのあと重い腰を上げて作曲開始し、夕ご飯を作ったり、妻が作る時は食べて、夜9時まで作曲。このインタビューの文章も、連載も、ほぼ僕はお風呂の中でスマホで書きます。今、実は湯船の中です。
——長くロンドンに住んでいらっしゃいます。理由をお聞かせください
 たまたま留学した先がイギリスで、引越しがめんどくさかったので、そのままロンドンに住んでます。
——ボンクリは続きますか。
 続きます、今年も9月28日に東京芸術劇場でボンクリやります! 今年は規模も内容もまた大きく、ワイルドです。 https://www.borncreativefestival.com