レコード・アカデミー賞は、わが国の音楽文化の向上に資する目的を持って、音楽之友社が1963年(昭和38年)に創設したもので、1年間に国内のレコード会社から発売されたクラシック・レコードのうち、『レコード芸術』誌「新譜月評」(本年度は2019年1月号~12月号)で高い評価を得たものの中から、部門ごとに演奏や録音などの最も優れたディスクを選定し、発売レコード会社を表彰するものです。回を重ねるごとに多大の成果をあげ、海外を含め各方面からご注目されています。
<藤倉大コメント>
第57回レコード・アカデミー賞の現代曲部門で僕の最新アルバム「ざわざわ」が選ばれました。ありがとうございます。
僕は一応クラシックの世界の作曲家となっているのに、なんでこんなに録音にこだわるのでしょうか。僕にもよく分かりません。
「でさ、なんでそこまで録音にこだわるの?」
僕の録音に費やす労力、録音にまつわるほとんどの分野を自分でやりたいというマニアっぷりを側で見ている演奏家の友達からよく言われるのです。
クラシックはもともと「生演奏でなんぼや!」という世界。録音はそこから派生した、まさにおまけのようなもの。
ですが、僕のポップミュージシャンの友人、デヴィッド・シルヴィアンと話していると、
ポップスとはまったく反対だね(つまりポップスでは「録音でなんぼや!」ということ)と。
だから彼らはレコーディング・アーティスト、と呼ばれるわけで。
ライヴで演奏を聴く、見るより、遥かに録音で聴く機会の方が多いのです。
もちろん、そこまで僕の音楽を元々聴く人は多くないかもしれないですが、そんな小さな世界でも生で聴くより録音聴く機会の方が多めかもしれません。
特に今はネット環境さえ整っていれば録音は聴けます。
それならなおさら録音に熱意をかけ、アルバムを作りたい、と思うのです。
自分の好み通りの録音のミックスに仕立て上げる、それは作曲するよりも、そして恐らく演奏家が作品を演奏するために費やす練習時間よりも遥かに時間がかかる作業です。
永遠に終わりのない世界でもあります。
それでもその労力を費やした向こう岸には、僕の耳が納得する音が流れてくる世界が待っています。他の人にはどう聴こえるかはわかりませんが。
録音の音は一気に立体的、ある時は鼻の先を引っ掻き、ある時は首のあたりにジュワーっと温かい液体が包んでくる(単に温泉に行きたいだけ?笑)。
ひやっと足の裏を触ったと思った音が来たら、そのあとはドーーンと背を押されて、空に浮く。。。。そんな録音を僕なりに作ることができるんです。少なくても目指せます。
ここまで読んで頂いて分かるかも知れませんが、僕が聴きたい録音、というのはクラシックの普通のエンジニアが作る音とは全然違う様です。
なので、最近は僕のアルバムではなく、演奏家のアルバムに僕の曲を収録して頂く時にも、よくミックスのことを「藤倉さんならどうしますか?」と聞かれ、
例としてやってミックスした音源を送ってみると、そのレコード会社のチームとどうやら正反対なものができる様でして。
時には、「ちょっとウチとして、藤倉さんのトラックだけ浮くのでアルバムには収録出来ないけれども、なんとか別の形で出したい!」と言ってくださるレーベルの人もいます。
今から思うと19歳くらいだったか大学生の頃から、まだ僕が自分のパソコンを持つ前からこういう作業はレコード・プロデューサーとしても活躍されていた作曲の先生の家のスタジオで、作曲のレッスンなんてやらずに先生を指図して自分の録音を自分好みの響きに作り上げる事をしていました。
その延長が今。
こうやって自分の曲を「録音物」として誰かに良いと言って頂くのは作品そのものを褒められるより嬉しいです。
有難うございました。
藤倉 大
<受賞ディスク>
藤倉大:ざわざわ
"Zawazawa" promotion video
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■品番:SICX-10005
■価格:¥3,000+税
■レーベル:SONY MUSIC JAPAN INTERNATIONAL
■発売日:2019年6月26日
■形態:ハイブリッド・ディスク(CD/SACD)/DSD MASTERING
収録曲:きいて〜ソプラノのための/ざわざわ~混声合唱のための/さわさわ(ざわざわ パート2)~混声合唱とマリンバのための/チューバ協奏曲〜チューバとウィンドオーケストラのための/ゴー(第5楽章)~ソロ・クラリネットのための/BIS〜コントラバスのための/ゆらゆら〜ホルンと弦楽四重奏のための/ES〜コントラバスのための/はらはら〜ホルンのための/ニュー・ハウス~混声合唱のための
参加アーティスト:小林 沙羅(ソプラノ)、山田 和樹(指揮)、東京混声合唱団、
塚越 慎子(マリンバ)、オイスタイン・ボーズヴィーク(チューバ)、
芸劇ウインド・オーケストラ・アカデミー、東京佼成ウインドオーケストラ、
シズオ・Z・クワハラ(指揮)、吉田 誠(クラリネット)、佐藤 洋嗣(コントラバス)、
福川 伸陽(ホルン)、カルテット・アマービレ(第1ヴァイオリン:篠原 悠那、
第2ヴァイオリン:北田 千尋、ヴィオラ:中 恵菜、チェロ:笹沼 樹)
<藤倉大 プロフィール>
世界で演奏される機会の最も多い作曲家の一人。ザルツブルク、ルツェルン、BBCプロムス等の音楽祭、欧米のトップ・オーケストラから国際共同委嘱を依頼され、ブーレーズ、エトヴェシュ、ドゥダメル、ムローヴァ、ケラス、小菅優らが作品を初演・演奏している。ヴェネツィア・ビエンナーレ音楽部門銀獅子賞、芸術選奨音楽部門文部科学大臣新人賞、アイヴァー・ノヴェロ賞等受賞多数。オペラの国際的評価も高く2015年に《ソラリス》、18年に《黄金虫》を世界初演。現在3作目の世界初演等が控えている。録音はソニーミュージックや自身が主宰する音楽レーベルMinabel Recordsから、楽譜はリコルディ・ベルリンから出版されている。
|日本国内で聴ける今後の藤倉大初演作品|
●2019年12月20日(金)19:00
浜離宮朝日ホール
bueno ueno〜サクソフォンと太鼓のための(上野耕平委嘱作品)※世界初演
上野耕平(サクソフォン)、林英哲(太鼓)
●2019年12月26日(木)19:00
東京オペラシティ リサイタルホール
Sawari〜三味線のための(本條秀慈郎委嘱作品)※世界初演
本條秀太郎(三味線)
●2020年3月13日(金)19:00
東京オペラシティ コンサートホール
Akiko’s Diary〜ピアノ独奏のための(ピアノ協奏曲第4番 《Akiko’s Piano》のカデンツァより)※世界初演
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
●2020年5月16日(金)、5月17日(土)
愛知県芸術劇場コンサートホール
三味線協奏曲(長谷川綾子/本條秀慈郎委嘱作品)※日本初演
本條秀慈郎(三味線)、ジェフリー・パターソン(指揮)、名古屋フィルハーモニー交響楽団